団DANS

団DANSとその10年間の歩み(2005〜2015年)
2005年春、息子の友人である若いアーティストが我が家に夕食に来た際、東京の中心地で若手アーティストが作品を発表することの困難さを語ってくれました。当時、日本経済の低迷により多くのギャラリーが苦境にあり、アーティストたちは自費でギャラリーを借りなければ展示できない状況でした。私は彼女の話を聞いて、何か手助けができるのではと考えました。そして驚くべきことに、1か月もしないうちにその機会が訪れました。
銀座にビルを所有していた旧友でファッションデザイナーの渡辺弘二さんが、借主の仕立て屋が退去する予定だと話してくれたのです。彼はアートを愛する人物で、私のアイディアにも快く賛同してくれ、1ヶ月間無償でスペースを使わせてくれることになりました。私はすぐにアーティストの友人にそのことを報告し、彼女は日本画、油絵、彫刻、インスタレーション、映像など多様なメディアで活動する13名のアーティストを集め、最初の展覧会を開催することになりました。
私はアートが大好きですが、それまでアートの仕事に関わったことはなく、展示の準備方法もまったく分かりませんでした。手探りの中で、フランス人の友人でアートに造詣の深いクリスティーヌ・ヴァンドレディ・オザノーに協力をお願いし、最初の話し合いでグループ名をつけようということになりました。
アーティストたちは既存の団体に属するのではなく、より自立した形で活動したいという思いがありました。私は、そういったアーティストを支援するプラットフォームをつくりたいと考えました。そこで日本語の「団(だん)」と、フランス語の「dans(グループの中で)」を組み合わせて、「団DANS(ダンダンズ)」という一風変わった名前が生まれました。
資金がなかったため、アーティストたちは展示準備にも協力してくれました。元仕立て屋の店舗はそのまま利用し、フィッティングルームで映像を流したり、大きな引き出しにインスタレーションを設置したり、棚にブロンズの彫刻を展示したりしました。
DANDANSのユニークな点の一つは、透明な入札箱を使ったサイレントオークションでした。入札状況が見えることで盛り上がりが生まれました。収益の90%はアーティストに、残りの10%は次回展示のための資金としてDANDANSに蓄えられました。この配分はその時の状況によって柔軟に変更していました。京橋のギャラリー「古都軒」の平野良一氏には多くの助言をいただきました。
オープニングには、アーティストの友人や恩師、そして私の知人が集まり、ワインやおつまみを持参して温かい雰囲気の中で祝ってくれました。
作品が売れた際には、アーティストに作品をコレクターの自宅まで届けてもらいました。展示される空間を見ることは、若いアーティストにとって非常に貴重な経験になりました。この初回の展覧会から多くの友情が生まれ、観客も毎年戻ってきてくれるようになりました。彼らはアーティストたちが成長していく姿を見るのを楽しみにしていたのです。
その後も私は展示会場を探し続け、10年間で17の展示を企画しました。そのうち7つは、ワシントンD.C.、ロンドン、ベルリン、パリなど海外で開催しました。
メンバーは入れ替わりがありましたが、最初の展覧会での方針はその後も受け継がれました。
会場が決まると、私はアーティストたちに日時・テーマ(あれば)・最初のミーティング日時を伝えました。ミーティングではラフスケッチの提出期限を設定し、展示準備に関わるタスク(リスト作成、スケジュール管理、資金集め、カタログ制作、招待状作成、名札の用意など)を分担しました。何度か展示を重ねるうちに、グループ全体の運営もスムーズになっていきました。
展示会場も毎回異なり、住宅メーカーのモデルルーム、ホテルの庭園やバンケットルーム、ゲストラウンジ、有名ブティックの展示スペース、元大使館、ギャラリー、弁護士事務所、ベルリンのドイツ外務省のエントランスホールなど、ユニークな場所で作品を展示しました。
展示以外にも、アーティストたちを連れてソウル、重慶、北京などへの短期研修旅行も実施し、現地のアートシーンを体験しました。若手アーティストが近隣諸国の文化を知ることはとても重要だと考えています。
私は常に、若いアーティストたちが視野を広げることの大切さを信じてきました。中には海外のレジデンスに参加したり、助成金を得て留学したり、イタリア、パリ、スペイン、クロアチア、ブラジル、台北、香港、シンガポール、アメリカのギャラリーやアートフェアに出展したアーティストもいます。
2011年に東日本大震災が発生した際には、被災地を訪れ、仮設住宅で暮らす子どもたちや高齢者を対象にワークショップを行いました。Tシャツへのプリント、粘土や和紙作りなどを一緒に行い、大変貴重な時間となりました。すべてを失った方々との交流は、私たちにとって人生で何が大切かを再認識する経験となり、アーティストたちの作品にも深みを与えたと信じています。
もちろん、すべてを一人で成し遂げることはできませんでした。日本国内外の多くの友人たちの支えがあってこそでした。会場提供の情報、ファンドレイジングイベント、助成金、記事執筆、ワインや賞品の寄付、音楽演奏、レセプション開催、コレクターの紹介など、数えきれないほどのご支援に心より感謝申し上げます。
この10年間を振り返ると、素晴らしい思い出で溢れています。心からの感謝を込めて、このアーカイブを皆様に捧げたいと思います。アーティストたちとの日々は、私の人生の宝物です。
現在私は70歳近くなり、アーティストたちも独立して活動できるようになりました。これからは少し距離を置いた形で応援し、変わらぬ友情を続けていけたらと思っています。
2016年 秋
団DANS 主宰・ディレクター
麻生和子
追記:このアーカイブを作成するにあたり、ほとんどの出展アーティストに連絡を取りました。「今は制作をやめています」「地元に戻って就職しました」「結婚して子育て中です」といった返事もいただきました。
多くの若手アーティストが他の責任を抱え、自分の情熱を手放す決断をしたことに、私は敬意を表します。彼らのアートへの深い愛情を間近で見てきたからこそ、その決断の重みを理解しています。この場を借りて、そうした決断をした皆様にも心からの敬意と応援をお伝えします。